集合論の教科書は,この本を底本にしているのではないかと思うことがある.
この本を読んで感じたところは,以下の通りである.
★注意点や背景など書くべきことを書いている
集合の概念について,抽象的すぎず,かといって突飛なたとえ話でもなく,ほどよい説明である.
空集合の説明も同様である. 背景となる考え方を丁寧に説明している.
★読みやすい文章
もって回ったような表現は目立たない.また,読んでいて「何故そうなるのか.何故そんなことがいえるのか」と引っかかるところも少なかったように思う.
頻繁に出てくる「しからば」という言葉が,なんとなく新鮮に思えるのは文体によるのだろうか.
◆なんとなくすっきりしない部分もある
この本にも「あきらかに何々」という表現が出てくる.数学の教科書に限れば,この言葉は使用禁止にするべきだと考えている.
内容とは関係ないのだが,数式を独立させずに「行内数式」としている個所が多いためか,見た目にメリハリがなく,のっぺりとしているように感じる.加えて,べた書きの文章が多い点も,見やすさを損ねている.
★巻末の参考書が改訂されている
初版発行時にはまだ出版されていなかった本が,増補版に参考書として載っており,初版・増補版・文庫版と,参考書を見直しているようである.
また,旧版の索引はアルファベット順に構成されていて参照しにくかったが,文庫版では五十音順に改められており,見やすくなった.
これらのような改善は,読み手にとってありがたい(もっとも,日本語の索引をアルファベット順で構成するなど,私の考えではあり得ないことである).
◆問の答えが一部省略されている
この本においても,問の答えは一部省略されている.
初学者・独習者にとって回答の省略は困る.「自分で考えろ」ということなのかもしれないが,それなら,答えを見ずに考えれば良い.解答を省く理由にはならない.
分からないときは,解答を見ながら考えるというのも1つの方法である.
考え方の選択肢を奪ってはいけない.
◆現在販売されているのが文庫版である.
旧版のB6サイズか,A5サイズでの復刻を願う.
数学の本を「文庫サイズのみ」とするのはやめるべきだ.もし私が出版社の上層部の人間なら,数学の本の「文庫サイズだけでの出版」は許可しない.もっとも「文庫サイズも」ということなら,反対はしない.
文芸書のように,気軽に読めるものなら,手軽なサイズは重宝する.もって歩くにも邪魔にならず,さっとカバンから取り出して読むことができるのは良いことだ.
しかし,数学の専門書は気軽な読み物ではない.さっとカバンから取り出して読んだりはしないのである.腰を据えて読むには,文庫サイズは小さすぎる.ある程度のサイズが欲しい.
要するに,机上で本を開いたままにしたいから,ある程度のサイズは必要だということである.しかし,大き過ぎては場所をとる.
私の感覚では,数学の書物はA5版であるべきだ(ここは敢えて言い切る).新書版・文庫版では小さい.B6版はグレーゾーンだ.B5版以上のサイズは逆に大きすぎると感じる.
品切・絶版になってしまうことを思えば,文庫版であっても手に入るのはありがたいことではある.だが,そこで「しかし」といいたくなるのである.
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メインに据えて通読し,他の本でわかりにくいところを補うようにした方が良い. 副読本としては使いにくいように思う.
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