ちょっと長いです.
定義(線型空間).$V$ を空ではない集合 ,$K$ を体とする.ここで,
- $V$ に加法 $x+y$ が定義されていて,以下の4つの条件を満たしているとする;
- (結合律)任意の $x,y,z\in V$ に対して,$(x+y)+z=x+(y+z)$.
- (単位元)$V$ にある要素 $0$ がただひとつ存在して,任意の $xin V$ に対して,$x+0=x$.
- (逆元)任意の $x\in V$ に対して,ある要素 $x’\in V$ がただひとつ存在して,$x+x’=0$.
- (交換律)任意の $x,y\in V$ に対して, $x+y=y+x$.
- $V$ にスカラー倍が定義されていて,次の 1. — 4. を満たしているとする;
- 任意の $x,y\in V$,$a\in K$ に対して,$a(x+y)=ax+ay$.
- 任意の $x\in V$,$a,b\in K$ に対して,$(ab)x=a(bx)$.
- 任意の $x\in V$,$a,b\in K$ に対して,$(a+b)x=ax+bx$.
- 任意の $x\in V$ に対して,$1x=x$.
このとき,$V$ を $K$ 上の線型空間という.
命題.$X$ を集合,$W$ を体 $K$ 上の線型空間とする.$X$ から $W$ へのすべての写像を要素とする集合を $F$ とする.$f,g\in F$,$a\in K$ に関して次のような演算を定義する;
\begin{align*} f+g & =\{(x,,f(x)+g(x))\mid x\in X\}, \\af & =\{(x,,a[f(x)])\mid x\in X\}. \end{align*}
このとき,$F$ は $K$ 上の線型空間である.
補足.$F$ が線型空間であるためには,$f+g$ も $af$ も,$F$ の要素であることが必要である(上ではそのように定義している).
補足.$F$ が線型空間であるためには,定めた演算が【定義】のすべての条件を満たすことが必要である.
――
以下,各条件ごとに証明します.
証明(結合律).任意の $f,g,h\in F$,$x\in X$ に対して,
\begin{align*}
(f+g)+h & =\{(x,\,[f(x)+g(x)]+h(x))\mid x\in X\}\\
& =\{(x,\,f(x)+[g(x)+h(x)])\mid x\in X\}\\
& =f+(g+h)\end{align*}である.
補足.$f(x),\,g(x),\,h(x)$ は $W$ の要素である.$W$ は線型空間であったから,加法に関して結合律が成立する.
――
証明(単位元).$W$ の加法の単位元を $0_w$ とする.このとき,ある写像 $g_0\in F$ が存在して,$g_0 (x)=0_w$ となる;$g_0 =\{(x,\,0_w)\mid x\in X\}$.$g_0$ が $F$ の単位元であることを確認する;任意の $f\in F$ に対して,
\begin{align*}
f+g_0 & =\{(x,\,f(x)+g_0 (x))\mid x\in X\}\\ & =\{(x,\,f(x)+0_w)\mid x\in X\}\\
& =\{(x,\,f(x))\mid x\in X\}\\
& =f
\end{align*}である.この $F$ の単位元 $g_0$ を $0_F$ とあらわすことにする.
――
証明(逆元).任意の $f\in F$ に対して,$f+f’=0_F$ となるような $f’\in F$ が存在することを示す;
\begin{align*}
f+f’ & =\{(x,\,f(x)+f'(x))\mid x\in X\}
\end{align*}である.$f(x)$ に対して,$f(x)+(-f(x))=0_w$ を満たす $-f(x)$ が存在する.そこで,$f'(x)=-f(x)$ とすると,\begin{align*}
f+f’ & =\{(x,\,f(x)+[-f(x)])\mid x\in X\}\\
& = \{(x,\,0_w)\mid x\in X\}\\
& = 0_F
\end{align*}である.次に,任意の $f\in F$ に対して,$f+f’=0_F$ となるような $f’\in F$ はただひとつであることを示す;$f+f’=0_F$,$f+f”=0_F$ であるとする($f’,\,f”\in F$).このとき,
\begin{align*}
f” & =(f’+f)+f”\\
& =f’+(f+f”)\\
& =f’
\end{align*}となる.
――
証明(交換律).任意の $f,\,g\in F$ に対して,
\begin{align*}
f+g & =\{(x,,f(x)+g(x))\mid x\in X\}\\
& =\{(x,,g(x)+f(x))\mid x\in X\}\\
& = g+f
\end{align*}である.
補足.$f(x),\,g(x)$ はともに $W$ の要素である.$W$ は線型空間であったから,加法に関して交換律が成り立つ.したがって,\[f(x)+g(x) = g(x)+f(x)\]である.
――
証明( $a(f+g)=af+ag$ ).任意の $f,\,g\in V$,$a\in K$ に対して,
\begin{align*}
a(f+g) & =\{(x,\,a[f(x)+g(x)])\mid x\in X\}\\
& =\{(x,\,a[f(x)]+a[g(x)])\mid x\in X\}\\
& = af+ag
\end{align*}である.
――
証明( $(ab)f=a(bf)$ ).任意の $f,\,g\in V$,$a,\,b\in K$ に対して,
\begin{align*}
(ab)f & =\{(x,\,(ab)[f(x)])\mid x\in X\}\\
& =\{(x,\,a(b[f(x)]))\mid x\in X\}\\
& = a(bf)
\end{align*}である.
――
証明( $(a+b)f=af+bf$ ).任意の $f,\,g\in V$,$a,\,b\in K$ に対して,
\begin{align*}
(a+b)f & =\{(x,\,(a+b)[f(x)])\mid x\in X\}\\
& =\{(x,\,a[f(x)]+b[f(x)])\mid x\in X\}\\
& = af+bf
\end{align*}である.
――
証明( $1f=f$ ).任意の $f\in F$ に対して,
\begin{align*}
1f & =\{(x,\,1[f(x)])\mid x\in X\} \\
& =\{(x,\,f(x))\mid x\in X\}\\
& = f
\end{align*}である.したがって,$1f=f$.
補足.$1,\,f(x)$ はともに $W$ の要素である.$W$ は線型空間であったから,$1[f(x)]=f(x)$ である.
写像と写像の和も,写像のスカラー倍も,写像で直接書けやゴルァ!というわけで,今回のような定義と証明になったのでした.
なんていうか,$f+g$ を $(f+g)(x)=f(x)+g(x)$ で定義するといわれても,私にはピンと来ないのですな.頭の中でその二つが結びつかないのです.$f+g$ を定義するなら,\[f+g=\text{ホニャララ}\] と書いて下さいよという感じで.
補足説明が足りない(抜けている)のだが,自分で納得できる説明が完成するのを待っていたら夏が終わってしまうような気がしたので,公開することにしました.抜けている補足は後日追加します(気分次第).
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