赤攝也「現代数学概論」(ちくま学芸文庫)で目に付いた部分を補足します.場所は146頁の「§11 同型」の所(他に気になるところはないのかとか言わない.中の人は素朴集合論ぽよだ!).
具体的には以下の部分;
この「誘導された全単射」というのが本当に全単射なのかがチョット引っ掛かったわけです.
記号の用例は,拙著「集合論」を参照して下さいと言いたいところなのですが,一点だけ……写像 $f\colon A\to B$ で,定義域の部分集合 $A’$ の $f$ による像を $f[A’]$ と表記することにします.「集合論」では $f(A’)$ と書いているのですが,最近では $f[A’]$ の方がいいかなと思ってたり.
【命題】 $f\colon A\to B$ を全単射とする.ここで,$A$ の冪集合 $\mathfrak{P}(A)$ から $B$ の冪集合 $\mathfrak{P}(B)$ への写像 $g$ を $g(X)=f[X]$ と定める.このとき,$g$ は全単射である.
【証明】まず単射であることを示す;任意の $X_1 ,\, X_2 \in \mathfrak{P}(A)$ に対して,$X_1 \ne X_2$ ならば,
- ある $x_1 \in X_1$ が存在して,$x_1 \not\in X_2$ .
または
- ある $x_2 \in X_2$ が存在して,$x_2 \not\in X_1$ .
である.
- のとき,$f(x_1) \in f[X_1]$,$f(x_1)\not\in f[X_2]$ より,$f[X_1]\ne f[X_2]$ であるから,$g(X_1)\ne g(X_2)$ となる.
- のとき,$f(x_2)\not \in f[X_1]$,$f(x_2)\in f[X_2]$ より,$f[X_1]\ne f[X_2]$ であるから,$g(X_1)\ne g(X_2)$ となる.
以上より,$X_1\ne X_2$ ならば,$g(X_1)\ne g(X_2)$ である.したがって,$g$ は単射である.
次に,全射であることを示す;任意の$Y\in \mathfrak{P}(B)$ に対して,ある $X\in \mathfrak{P}(A)$ が存在して,$g(X)=Y$ となればよい.
$Y\in \mathfrak{P}(B)$ であるから,$Y \subseteq B$ である.また,$f$ は全射であるから,任意の $y\in Y$ に対して,ある $x\in A$ が存在して,$f(x)=y$ である.
そこで,$X=\{x\mid y\in Y,\,f(x)=y\}$ とすると,$f[X]=Y$ である.
$g$ の定義より,$g(X)=Y$.したがって,$g$ は全射である.
以上より,$g$ は全単射である.
というわけで,教科書内のさらっとさりげなく書かれた文言の隠された証明を見逃せないようになってしまっているのであります.素朴集合論の範囲内限定ですけどね.
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